【センイル】私の前にあらわれたスーパーヒーロー
もし私の人生に、キムナムジュンという人の紡ぐ言葉がなければ、どれほどつまらないものになっていただろう。
ナムさんは、私にとってスーパーヒーローだ。
彼の言葉は、未来に怯え、見えない明日に焦り、自分を信じることができなかった私の道を明るく照らし、道しるべとなってくれた。
ナムさんは、この世のあらゆる物事の真意を捉え、それを私たちに気づかせてくれる。例えそれがどれほど残酷な真実であっても、彼の紡ぐ言葉には、希望がある。一切不純物の溶け込んでいない言葉は、私たちを現実へと立ち向かわせてくれる、不思議な力がある。
夜空を見上げながら、「僕は世界を救えるスーパーヒーローだ」と想像していた少年は、本当に世界中の人々を救うスーパーヒーローになった。
누가 나 대신 울어줬으면해서
誰か僕の代わりに泣いてくれ종일 비가 왔음 좋겠어
一日中雨が降ればいい그럼 사람들이 날 쳐다 보질 않아서
そうすれば人が僕を見なくて済むから우산이 슬픈을 가려 주니까
傘が悲しさを隠してくれるから
でもそんなスーパーヒーローは、どうやら少し自分に自信がなく、とても不器用なようだ。今日はそんな愛しきヒーローに、ありったけの愛を込めてみたいと思う。
ヒーローが闘っているもの
僕たちの初期のCDアルバムのイントロに「9歳か10歳のとき 僕の心臓は止まった」という歌詞があります。振り返れば、他人が僕のことをどう思っているか、どう見えるかを、心配し始めたのが、その頃だったと思います。
夜空や星を見上げて空想することをやめ、他人がつくりあげた型に自分を押し込もうとしていました。自分の声を閉ざし、他人の声ばかり聞くようになりました。誰も、僕自身でさえ、自分の名前を呼びませんでした。心臓は止まり、目は閉ざされました。
2018年9月、国連総会で当時24歳のナムさんが世界に向けて発したこのメッセージは、一体どれほどの人々に希望を与えただろう。
ナムさんは常に、「自分とは何か」を問い続けてきた人だ。勉強が嫌いな少年が、勉強さえすれば成功すると言われ、大人たちからの根拠のない言葉を信じてひたすらに勉強した。誰かが勝手につくった型に自身が閉じ込められる感覚は、彼にとってこの上なき屈辱だったのだと思う。韓国は恐ろしいほどに学歴社会だ。小学生から常にランクづけされ、韓国牛の等級のように扱われる。
하지만 책상 앞의 난 단 한 순간도 행복하지 않았지
だけど机の前にいる自分は 一瞬たりとも幸せじゃなかった어머니 몰래 문제집 사이에 백지를 끼웠네
母さんに内緒で問題集の中に白紙を挟んだ드럼 베이스에 맞춰 써 내려가던 나의 정체
ドラムやベースに合わせて書き下ろしていた俺の本心성적표를 받을 때완 다른 숨 쉬는 느낌
成績表を受け取る時とは違う安らぎ感覚1등을 해도 내 맘은 늘 편치 못했었지
1位をとっても心はどこか安らげなかった
ミックステープ『RM』に収録されている『Voice』には、学生だった頃のナムさんの悲痛な本心が綴られている。当たり前と言われることが当たり前だと思えない。この苦しさは、僭越ながら私にも共感できる部分があった。
私はナムさんみたいに人々を救うことはできないけど、大学を出た後、なんで当たり前に就職するのか意味が分からなくて、就活もせずエンターテイメントの世界に飛び込んだ。それはおそらく「他人が作った当たり前」に対する、自分なりの反抗だったのかもしれない。
そしてナムさんはたった15歳で、「こうするべきだ」「こうあるべきだ」という、大人たちや社会からの呪縛に立ち向かう覚悟を決めたのだ。そんなナムさんを見ていると、ある言葉が思い浮かぶ。
悲しみは穴を掘るだけ。怒りは山をも動かす。
戦後、高度経済成長期に突入した日本を生きた人々は、敗戦した悲しみにのまれることなく、怒りをエネルギーにして今日の日本を築き上げた。悲しみは何も生まないが、怒りは世界を変えられる。15歳の少年は、社会や大人たちに押し込められてきた違和感や不満を怒りに変え、自分の音楽と声で、自分と同じように苦しむ人々を救おうと立ち上がったのではないだろうか。
あなたの名前は何ですか? あなたをワクワクさせるもの、心躍らせるものは何ですか? あなたのストーリーを教えてください。あなたの声を、あなたが信じているものを私は聞きたいのです。
ナムさんが私たちに伝えてくれる言葉は、自身の存在や世の中の不条理と葛藤した末に導き出した答えの、結晶なのかもしれない。
平和主義なスーパーヒーロー
もしキムナムジュンというヒーローが、鋼のような心の持ち主で、痛みすら怒りに変えてしまうヒーローだったら、それをエネルギーに変え続け、強靭なマントで飛び回っていただろう。しかしナムさんは、とても優しく温かい、誰よりも痛みに寄り添うことができるヒーローだった。
普段のナムさんは、平和主義でとても穏やかだ。世界平和のために車には乗らないし、休日には美術館へ足を運びアートで心を癒す。『In the SOOP』で見せてくれた、お気に入りのグミを食べながら外で読書をする姿は、なんとも愛らしかった。
そしてナムさんは、公の場で決して自分の感情を優先することはない。私はこの記事を書いていて、あることに気づいた。彼の本心は、全て歌詞に込められているのだ。公の場での彼は、常に自分を操縦し、とてつもないコントロール能力を働かせているように見える。「こうあるべき」という呪いと闘っている青年が、公の場では「こうあるべき」に徹している。
一見矛盾しているように思えるが、これこそが平和主義で温かく優しいヒーローの世界を救う方法なのだ。ナムさんは決して人を傷つけない。それがどんなに理不尽で嫌いな存在であろうと、特定を攻撃したりはしない。(ただしその後、音楽となって100倍に返ってくるが。)
『MAP OF THE SOUL : PERSONA』発売記者会見にて『血、汗、涙』のMVの盗作疑惑について質問をされたとき、苛立ちをあらわにせず、しっかりとメモを取りながら真摯に話を聞く姿が印象的だった。大きなステージで時々ふざけてしまうマンネラインを、さりげなく注意する姿も見受けられる。
今やBTSは、世界的に注目されるアーティストだ。ほんの少しの隙を見せれば、多くの人々がそこに漬け込み、予想外の攻撃でメンバーやスタッフを傷つけるかもしれない。平和主義なスーパーヒーローは、人々のために闘うだけでなく、大切な人や場所を守る強さももっているのだ。
完璧になれない、愛しきヒーロー
キムナムジュンと検索すると、「IQ148」「英語堪能」「脳セク」などのワードが出てくる。どこからどう見ても完璧に思えるが、表舞台から降りたナムさんは、びっくりするほどポンコツだ。見ているこちらもひっくり返ってしまうくらい、とにかく何もできない。
『BON VOYAGE Season 1』では、早々にパスポートを紛失。Season 2では、ポケットに入れていたお金を落とすわ失くすわカバンをお店に忘れるわで大惨事(いや、通常運転)。『In the SOOP』ではラジコンボートの部品を開封して早々に壊しかけるし、網戸も豪快に外してしまった(当たり前のようにユンギさんが修理)。AirPodsは現在34個目らしい(今はもっと増えているかも)。
我が推しのキムソクジンがナムさんにフーディーをプレゼントしたときも、「ヒョンありがとう!ポケットがないデザイン珍しいね!」と言って、ただ表裏反対に着ていただけということもあった。「ナムジュンを見ていると、神は平等なんだなって感じる」というジンくんの一言は、まさに核心をついている。
僕は何もできないので、いつも悪いと思っています。でも何もできないから外れてくれと、言われる人にはなりたくありません。諦められたくないんです。
『BON VOYAGE Season 3』でそう話したナムさんは、ほかのメンバーが自由時間を過ごしている間、ひたすら曲作りと向き合っていた。何もできない申し訳なさや罪悪感を拭うように、「自分には曲作りしかできない」と、自由時間を返上して曲作りに励むナムさん。こんな愛しきリーダーが他にいるだろうか……。
そんな愛しき私たちのヒーローは、これからも不器用な自分を愛するために旅を続け、自分の運命とともに生きていくのだろう。
多分僕はもともと、こういう形になる運命だったんだと思う。
君の手間と涙を僕は知っている。
誰かがわかってくれず、全て知らないことだとしても、僕は本当に知っている。
お疲れ様。そして愛している、本当に沢山。
あなたが自身に宛てた手紙で書いていたように、私も祈っています。あなたの全ての迷いが思春期のように、あなたを通り過ぎますように。
ハッピーバースデー、そしてありがとう。私たちのヒーローへ、愛を込めて。
【センイル】JUNGKOOKを証明するその日まで
グクちゃんの真っ直ぐな歌声は、甘く澄み透って高く舞い、我々の心を惹きつけて離さない。
私が初めてBTSの楽曲を聴いたのは、彼らが『Dynamite』を披露したとき。つまり、私が初めて聴いたBTSの歌声が、グクちゃんだった。透明感に溢れ、歪みが一切なく、心地良いのに真っ直ぐ心の底まで射抜く声。楽曲のストーリーを展開していく主人公として、こんなにふさわしい人はいない。
そう、グクちゃんは、主人公なのだ。
透明感に満ちた歌声、綺麗なのに愛嬌のある顔立ち、腰の位置が高すぎるスタイル、それだけでも食べていけそうな絵の腕前……神様からもらった数えきれないほどのプレゼントを、子どものように無邪気に開け、たくさん努力して、たくさん使って、私たちに幸せを与えてくれる、最高の主人公だ。でも彼はいつも、どこか自信がなさげで、どこか不安そうで、何かに追われるように全速力で走っている。
今の自分を見て、いま必要なものが何かを考えるだけであって、あの時はこうだった、こんなに成長したんだ、よくやった、とかはあまり思わないですね。
彼は絶対に自分を認めようとしない。どれだけ努力しても、どれだけ賞賛されても、まだ足りない、僕は怠け者だと言う。私は不思議に思っていた。何が彼をそこまで駆り立てているのか。その根源は、どこからくるものなのか。
私は正直、グクペンの皆さんの1パーセントほどしか、グクちゃんのことを知らない。こんな私が、BTS・JUNGKOOKのことを書く資格があるのか迷ったが、今日はチョンジョングク24歳の誕生日。こんな機会でもなければ、多分私は彼のことを書くことはないと思う。だから思い切って書くことにしてみた。BTSの黄金マンネと呼ばれる彼は、何を想い、何を感じているのかを、ほんの少し覗いてみたい。
神様からの贈り物
グクちゃんは、神様からたくさんの贈り物をもらった人だ。「あなたはアイドルになって、世界中の人を幸せにしなさい」まるで、そんな使命をもらったかのように。
彼に驚かされることは数知れず。ダンスや歌はもちろん、リレーを走れば何人も抜き、ギターもドラムもできちゃう、絵だって描けちゃう、しかもプロ並みに。YouTube公式チャンネルに投稿されているグクちゃんが監督をした映像作品『G.C.F シリーズ』では、彼の目線で撮影された、素で美しいメンバーの表情が映し出されている。淡く儚さのある質感と、柔らかくて甘いBGM。そして綺麗な音ハメの編集まで……私はこれを観たとき、なんと恐ろしい子なのだろうと思ってしまった。
『BON VOYAGE Season 4』では、動画を一回見ただけでサーモンを捌いてしまっていたし、初めてのキャンピングカーの運転だってお手のもの。道具の使い方がわからないなど、不具合が起きるとお兄ちゃん達から招集がかかり、サラッと解決してしまう。書き出せばキリがないほど、グクちゃんは才能に溢れたオールラウンダーだ。そう、才能に溢れすぎたのだ。
人は、簡単に手に入るものにあまり価値を感じない。炊飯器で炊いたご飯と、一から火を起こして炊いたご飯とでは、きっと全然味が違う。1時間練習をしてバック転ができた人と、1ヶ月間かけて成功した人とでは、達成感はまるで違う。人は努力した分だけ、苦労した分だけ、自分に自信が持てるのだ。神様からの贈り物は、自分を満たす材料にはならない。周りは才能や天性のものを羨むけど、結局、そんなもので自分を埋めることはできない。
グクちゃんはいつもいつでも全力だ。時々ブレーキが効かなってしまうほど。何度も何度も納得がいくまでレコーディングし、空き時間があれば発声練習をする。ハードなスケジュールの中『Butter』のMV撮影のために5日間水しか口にしなかったというエピソードも、彼がいかに努力を惜しまず、パフォーマンスに情熱をかけているかがわかる。
「Rather be dead than cool」(情熱無く生きるくらいなら、死んだ方がマシ)。アメリカの世界的ロックバンド『ニルヴァーナ』のヴォーカル、故カート・コバーンの名言だ。この言葉はグクちゃんの腕に刻まれ、人生の指標となっている。
周りからみれば、心配になってしまうほどの底知れぬ情熱。十分すぎるほどの努力。でも彼のなかではきっと、何か満たされない、何か足りない、そんな虚しさが渦巻いているのかもしれない。神様からの贈り物が多すぎるあまり、抱えきれず、溢れてしまう。グクちゃんは、そんな想いと闘ってきたのかもしれない。
いいえ、本当に怠け者です(笑)。僕がもし一人だったら、たぶんずいぶん約束を守れなかったと思います(笑)。でも団体で動く時は、僕がちゃんとしていなかったらだめですから。本当に怠け者ですし、あ、考え事もちょっと多いですね。
もし月が輝いていなければ……
私は心のどこかで、いつもこう思ってしまっていた。「グクちゃんだからできちゃうよね。だって多才だし、器用だもん」と。彼はおそらく、努力よりも、才能を認められてきた人だ。それゆえに、とても高い期待を背負ってきた人だ。
人に思われる僕のイメージがすごく羨ましいです。黄金マンネと言ってくれますが僕はそう思わないので、そういう風に見えるようにもっと頑張らないといけない。
ドキュメンタリー『BREAK THE SILENCE』で、グクちゃんが語った言葉だ。「黄金マンネ」「天才肌」そんな周りからの評価が、「完璧で当たり前」という果てしなく高いハードルを彼に背負わせてしまったのかもしれない。「人に思われる僕のイメージがすごく羨ましい」と語るグクちゃんは、そんな自分に追いつくために、逃げることなく必死に走っている。とてつもなく大きな呪いに、立ち向かっているような気がした。
あの月が輝いていなければ 人々は月に気づくのかな
『In the SOOP』ep1で宿に向かう車中、助手席に座るナムさんに、グクちゃんはこんな歌詞を提案していた。月の光は、太陽からの贈り物だ。そして月の裏側は、誰も知ることができない。人々はその光だけを見て、「月は美しい」と言う。「もし神様からの贈り物を全て奪われてしまったら、もしみんなの思う僕と本当の僕が違ったら、人々は自分を愛してくれるのだろうか」そんな風にも聞こえた。
一人の人間としてのJUNG KOOK、その人として認められたいです。
僕は将来もずっと音楽を続けたいです。本当に遠い将来になると思いますが、音楽で必ず証明して見せたいです。
グクちゃんが語る言葉には、「認められたい」「証明したい」というワードが多く含まれている。たくさんの賞賛を得て、結果を出し、多くの人から評価をされてきたBTS。もちろんこれは、7人だけの力ではないことを、痛いほど分かっているのだと思う。それがゆえに、「みんなが評価しているジョングクは、本当に僕なんだろうか。」「僕の実力や努力なんて、これっぽっちも反映されてないのではないのか。」そんな想いが渦巻いているようにも見えた。そんな自分への虚しさや劣等感が、計り知れぬ情熱の根源となっているのだろうか。
BTSにはメンバーもいて、事務所もあって、ファンの皆さんがいるからこそ、ここまで来られました。ただ、自分一人でも認めてもらえるんだろうかということは、気になります。それで、一回一人で身を投じてみたい気持ちはあります。やってみたいことも多いですし、成し遂げたいことも多いですし。
きっと彼は、努力と経験で培ってきたもの以外を全て捨てた、"空っぽのジョングク“を認めてもらえるのか、それが知りたいのかもしれない。「みんなが好きなジョングクは、ちゃんと僕自身なのだろうか」と。
将来僕が有名人ではなくなっておじさんになったとき、僕のそばには誰が残るかな。
私はいつか、「これがJUNGKOOKです!」と、満面の笑顔でステージに立つ彼の姿を見てみたい。そして、例え自分から何もかもがなくなったとしても、月が輝かなくなったとしても、あなた自身を愛してくれる人が、こんなにもたくさんいるということを、知ってくれる日が来ることを願っている。
幸せな1年になりますように。
お誕生日、おめでとう。
ラブマイセルフ、キムソクジン。
ジンくんを語ることは、私の語彙力と表現力ではあまりにも無謀すぎる。どの言葉を辿っても、どんな表現をなぞっても、全て違うような気がしてしまうのだ。
太陽のように明るいと人かと思えば、月のように裏側は絶対に見せてくれない。「ワールドワイドハンサム」とソンキスをかましたと思えば、「みんなは僕を美しいと言うけれど 僕の海は真っ黒なんだ」と歌う。
だから私は、ジンくんについて文章を書くことに自信がなかった。ジンくんを正確に表現できる言葉なんて、この世に存在しないと思っていた。でも今回は、そんなキムソクジンという強敵に挑んでみようと思う。重い愛だけを武器に。
ジンくんに堕ちたきっかけ
ジンくんに堕ちたきっかけは、2020年11月26日にWevers magazineにて公開された「BTS 『BE』 カムバック・インタビュー」だった。
まだBTSの頼れるリーダー、キムナムジュンの顔しか判別がつかない頃、Kpopファンの友人に連れられ、新大久保に何度か足を運んだ。目を細めてしまうほど明るく照らされたアイドルグッズのお店には、これでもかというほどBTSのポスターが並んでいた。「これがジョングクで、これがジンくんで、これがジミンちゃんで…」と一応友人から説明を受けたが、私の目にはキムナムジュンしか入ってこなかった。
その後2020年に日本テレビで放送された「MUSICDAY」にBTSが出演し「Dynamite」を披露していた。それをみた瞬間、私はテレビ画面に釘付けになってしまった。80年代のアメリカ映画を彷彿とさせるレトロな衣装に、明るくポップなステージセット、流れるような美しいダンスに、透き通る歌声、耳から離れないメロディ。そして何より、7人がとても楽しそうだった。
そこからBTSが気になり始め、SNSを開いてみると、そこは沼材料の宝庫だった。吸い込まれるように沼入りしてからも、しばらくは箱推し。当時ジンペンでは無かったものの、様々な動画を漁り、窓拭きと茶化されるジンくんや、盛大に親父ギャグをかますジンくんの姿を見て、たくさん元気をもらっていた。でもどこか危うげな空気を感じていたのも確かだった。
そしてある日発見したのが、最初に紹介したインタビューだった。
二面性と自己防衛
2020年、世界が大きく揺れ動いた。確証もないまま自分勝手に信じていたものたちが、呆気なく崩れ落ちた。その恐怖と喪失感は、世界を席巻するBTSの7人にも、私たちと平等に襲いかかった。この時期ジンくんは、燃え尽き症候群に悩まされていた。そんな時に発売されたのが、BTSのスタジオアルバム『BE』であり、それに基づき公開されたのが、「BTS 『BE』 カムバック・インタビュー」だ。
インタビューの時のJINの声は、控えめで穏やかだ。
そんな一文から始まったインタビューには、BTS・JINのパブリックイメージからは程遠い言葉が並べられていた。そこにいたのは、強くて明るい理想の自分と、自己防衛をしていないと今にも崩れそうな現実の自分の間で揺れ動く、一人の青年だった。
「今の感情に忠実に生きる」といいつつ、「自己防衛のために何も考えないようにしている」と語る。「何も考えずに生きたい」「感情に忠実に行動したい」そう自分に言い聞かせているようにも見えた。
ジンくんはきっと、”理想の自分″に向かって、ひたすらに走っている人だ。理想の自分という鎧を武器に、自分を守り、戦場へ向かっていく人だ。
ARMYの皆さんにはJINの部分だけを見せたい。
そうジンくんが語った一言に、全ては表れているような気がした。ジンくんにとって理想の人物は"BTSのJIN"であり、その姿だけをファンに届けたいのだと思う。
あのとき私が、ジンくんに抱いていた危うさの正体は、これだったのかは分からない。ただこれを読んだとき、私はキムソクジンという人をもっと知りたくなった。自分自身が臆病で、自身がなく、考え込んで卑下してしまう人間だからこそ、ジンくんから学ぶことがたくさんある気がしたのだ。
自己愛を探究する努力
ジンくんは、自分にとても劣等感を抱いていた人だ。おそらく、今も。
家の中心はいつも兄だった。母も兄だけを可愛がっていて嫉妬していました。
お兄さんは、生徒会長を務めたり、ファンクラブがあったり、とても明るく人気者だったという。そんなお兄さんと比較し、ジンくんは劣等感を抱いていた。御両親は、そんなつもりはなかったのかもしれない。でも、当時のジンくんの世界にはそう映ったのだ。
俳優を志し、倍率210倍の建国大学校映画芸術学部に入学。通学中のバスの中でスカウトされ、練習生となったジンくん。しかし周りには、志し高き天才ばかりが集まっていた。
デビューしてみると努力よりも才能が必要でした。いくら頑張っても、他のメンバーについていけないような気がして、僕の中の自信や自尊心が大きく傷つきました。
兄の存在、メンバーの存在、BTSの最年長である事実、そのどれもがジンくんの自尊心を傷つけ、劣等感を大きくしていったのだと思う。でもジンくんは、BTSの活動を通して、自分を愛することを探究し続けた。
私がおもわずノートにメモして今も持ち歩いている、ジンくんの言葉がある。
僕が幸せであることが重要だと思う。なんで僕がいつもふざけてワーワー言って笑っているかというと、それはみんなが笑ってくれるから。笑ってくれることは大事なんだよ。僕が幸せになるためにみんなを利用するんだ。みんなを笑わせて僕を笑わせるんだよ。誰かが君を見て幸せになれるんだったら、君も幸せなんだよ。
私は普段、ヘラヘラしている。周りの空気がピリつくのが怖くて、本音も言えずただヘラヘラしているのだ。(どうにかせい)そんな自分が嫌いで、なぜそんなにも人に嫌われることを恐れるのか、自分で自分が許せなかった。
そんなときに、ジンくんのこの言葉に出会った。誰かに嫌われるのが怖いからと考えるのではなく、自分が笑顔になるため、自分が幸せになるために、私はヘラヘラしているのだ。(ヘラヘラはやめい)
視点を変えるだけで、こんなにも世界が変わるのかと思った。自分を否定することなく、角度を変えてものごとを見ることで、自分がもっと幸せになれることを教えてくれた。だから私は、ジンくんの言葉が大好きだ。
ジンくんの自分を愛する精神は、メンバーにもたくさん影響を与えている。2020年に配信された『In the SOOP』ep8で、ジンくんとユンギさんが二人で話す場面があった。
ユンギ「おれは努力するふりはよくするけど…」
ジン「それが重要なんだって。どっちにしろ周りの人達の刺激になる。お前から刺激をもらってぼくが頑張れば、お前もそれを見て頑張るだろ?」
例え自分の努力が“フリ”だったとしても、それが周りの刺激になれば意味がある。そう考えれば、自分を責めなくて済む。そんなジンくんの前向きで豊かな視点は、劣等感に悩み、苦しみ、それでも前に進むために培ってきた、努力の賜物なんだと思う。
ジンくんは、誰よりも劣等感が強かったからこそ、自分を愛する方法、自分が幸せになる方法を、誰よりも知っているのだ。ラブマイセルフの精神は、今やBTSを語る上で欠かせないものとなっている。その根底にあるのは、ジンくんの哲学なんだと思う。
もしかして皆さん、一人一人が個性的で貴重な宝石だということを途中で忘れたことはありませんか。あなた自身を大切にすることを絶対に忘れず、いつでもあなたは輝く宝石だということを思い出して、いつも僕のように自信をもって輝くことを忘れないでください。
そして私は、いつかジンくんが、"アイドル・BTSのJIN"だけでなく、"1人の青年・キムソクジン"も許し、愛せる日が来ることを祈っている。